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「日本のエスプレッソ、何がダメなんですか?」プロが語る本場イタリアとの違い

皆さん、こんにちは!サンマルコの毛利です。

日頃から私のエスプレッソマシンに関する情報をご覧いただき、心から感謝申し上げます。

カフェ開業という大きな夢に向かっていたり、すでにカフェをオープンして奮闘されている皆さんに、少しでも役立つ知識や視点をお届けできればと思っています。

さて、先日、ある若いバリスタさんから、こんなストレートな質問をいただきました。

「毛利さん、単刀直入に聞きます。日本のエスプレッソって、何がダメなんですか?」

核心を突く、良い質問ですよね〜。

個人的にはこういうエスプレッソ議論は大好きです(笑)

私は、こう答えました。

「何がダメ、というわけではないんです。ただ、世界中から様々なコーヒー文化が入ってくる中で、エスプレッソの起源であるイタリア本来の姿が、少し置いてかれ気味になっているのかもしれません」と。

日本のコーヒー文化は、スペシャルティコーヒーの波に乗り、独自の素晴らしい進化を遂げてきました。
一方で「ホンモノ」、つまりエスプレッソが生まれた土地の文化や精神を知ることは、皆さんのお店を唯一無二の存在にするための、重要な鍵となります。

今回は、この「イタリア本来のエスプレッソ」とは一体何なのか?そして日本のカフェ文化とどう違うのか。

その本質に迫りながら、皆さんのカフェ作りへのヒントを探していきましょう。

本場イタリアのエスプレッソは「文化」に根付いている

「本場って、どんなエスプレッソなんですか?」

この問いへの答えは、味や抽出方法などいろいろあります。
でもその前に、まず彼らのライフスタイルそのものにあります。
イタリアにおいて、エスプレッソは「文化」であり、「日常」なのです。

特別な日のご褒美ではありません。
彼らは、

  • 朝、出勤前にバール(Bar)に立ち寄り一杯。
  • 昼休みにも一杯。
  • 仕事の合間の休憩中にも一杯。
  • 退勤してから仲間ともう一杯。

老若男女、みーんながこの習慣を当たり前のように実践しています。

それは、生活の中に深く、そしてごく自然に溶け込んでいる、なくてはならない存在です。

日本の私たちが、仕事の合間に一息つくためにお茶を飲む感覚に近いかもしれません。
しかし、そこには決定的に違うスタイルが存在します。

日本のカフェとイタリアの「バンコスタイル」

では、日本のカフェの現状はどうでしょうか。

日本では、カフェは「ゆっくりと時間を過ごす場所」という認識が強いですよね
友人との談笑を楽しみながら、あるいは一人で読書をしながら、一杯のコーヒーを時間をかけて味わう。

これが、日本のカフェ文化の主流の流れと言えるでしょう。

もちろん、それは素晴らしい文化です。一方イタリアのスタイルは、その対極にあります。

彼らの舞台は「バンコ(Banco)」
イタリア語でカウンターを意味します。

椅子に腰掛けて長居するのではなく、カウンターで立ったまま、僅かな時間でエスプレッソを楽しむ。
これが「バンコスタイル」です。

このスタイルが生まれた背景には、エスプレッソの語源が関係しています。

エスプレッソ(Espresso)は、「急行」を意味するExpressがイタリア語になった言葉だと言われています。

その名の通り、注文すればバリスタがピッ、と30秒ほどで抽出し、お客様はカウンターで砂糖をサッと入れて、キュッと一気に飲み干す。

そして「ありがとう!」と一言だけ残して、すぐさま店を後にするのです。

この間、わずか数分。
このスピード感こそが、本場のエスプレッソ体験の神髄です。

日本のカフェの平均滞在時間と比べると、その文化的な違いは明らかでしょう。

イタリア人が本当に満足するエスプレッソの秘訣とは?

さて、ここからが本題です。

「じゃあ、イタリア人が心から満足するエスプレッソを提供するには、どうしたらいいんですか?」

最高の豆を使い、完璧なグラインドと抽出をマスターすることでしょうか?

もちろん、それも重要です。
しかし、本質はそこではありません。

答えは、驚くほどシンプルです。

それは、「コミュニケーション」です。

イタリアの地域に根付いたカフェのバリスタは、常連客の顔と名前、そして「いつもの好み」を完璧に記憶しています。

常連客が店のドアを開け、カウンターに向かって歩いてくる。
その瞬間に、バリスタは客と目を合わせ、無言の合図を交わし、黙って「いつもの一杯」を作り始めるのです。

砂糖はいくつなのか、少しだけお湯を加えるのか、あるいはマキアートにするのか?
言葉にしなくても、すべてを理解している。

そして、出来上がったエスプレッソをカウンターに置きながら、「いつものやつね!どうぞ!」と、まるで旧知の友人のように声をかける。

これこそが、イタリア人が愛する最高のサービスなのです。

どんなに高価な豆を使おうと、どんなに最新鋭のマシンを使おうと敵いません。
この血の通ったコミュニケーションから生まれる「自分だけの一杯」の価値ってそういうものです。

レシピを超えた、心と心の繋がりから生まれる味わいなのだと私は思います。

 

まとめ:カフェ開業を目指すあなたへ

ここまでエスプレッソ文化の違いについてお話ししてきました。

誤解しないでいただきたいのは、イタリアのバンコスタイルをそのまま日本で再現することが、必ずしも正解ではない、ということです。

日本の「空間を楽しむ文化」も、また尊重されるべき素晴らしい価値観です。

その上で、イタリアの文化の根底に流れる二つの精神は、どんなカフェでも取り入れるべきだと私は信じています。

  • エスプレッソは、日常に寄り添うものであるという精神。
  • 最高のサービスは、お客様一人ひとりとのコミュニケーションから生まれるという本質。

高価で、敷居の高い、特別な飲み物としてエスプレッソを位置づけるのではなく、お客様が毎日でも気軽に立ち寄れるような、生活の一部となるお店を目指す。

そして、ただマニュアル通りにコーヒーを提供するのではなく、お客様の顔と好みを覚え、心を込めて「いつもの一杯」を差し出す。

そんな文化がお店にあるのなら、お客様は喜んでリピートするでしょう。

あなたのカフェでは、お客様とどんなコミュニケーションを交わし、どんな「いつもの一杯」を提供したいですか?

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